さて、皆さん準備はよろしいですか?

大学経営からの撤退に関する実務上のポイント

1.大学経営からの撤退の現実
2009年に学生募集停止を決めた大学は5校にのぼる。過去には2003年に募集停止し2004年に閉校した立志館大学、及び2007年から募集停止し2010年閉校予定の東和大学の2校あるが、この2校は経営破綻に近い事例であった。この2校を除いては救済合併して再生をはかるということが多かったが、2009年の事例は、余力を少し残した段階で早めに学生募集を停止し、閉校にするという点が特徴である。どうにもならなくなってから手を挙げてしまうのでは、学生、教職員、保護者そして大学を巡る関係者(高校、地方公共団体、企業、取引先など)に多大な迷惑がかかってしまう。そこで撤退という経営判断を行う必要がある。

2.民間企業と比較したときの特徴
A:公的な組織という思いが意思決定を先延ばしにしてしまうこと
大学は非営利組織であるために、民間企業のように採算のみを重視して判断しない。そのため事業継続見込みの判断が甘くなりがちとなり、意思決定が先延ばしにされる。しかし、大学経営から撤退する場合、ある程度は余力を残して残務を整理しなければ関係者の全員が不幸になってしまう。日頃から数値基準をもとにした経営判断を養っておく必要がある。

B:撤退決断時から廃校までタイムラグがあること
実際の大学廃校までには4年間のバッファーがある。いつどんな状況で閉めるのか、授業の状況、資格の取得状況などに合わせて決断しなければならない。時間軸が長くなるので、その間粛々と撤退できるだけのエネルギーとパワーを保たねばならない。そのためにも将来の見通しをきちんと計画してあらかじめ持っておくことが必要となる。

C:公表のタイミングが1回に限られていること
公表のタイミングは、学生の入学試験、入学式、学生募集のスケジュール、理事会・教授会の決議、文科省自治体関係者への報告などを考えた場合4月から5月の1回しかないと考えて良い。意思決定の時期をズルズルと延ばせば、また1年の先送りとなり事態が悪化してしまう恐れがある。

3.大学経営から撤退する時の実務上のポイント
大学経営から撤退を考える場合にあらかじめ考えておかなければならない実務上のポイントを以下に示す。

A:事後対応の重要性
どのタイミングで公表しても、学生、保護者からなぜもっと早く言わなかったのか、という批判を浴びる。関係者、理事などに対する秘密の厳守、マスコミへの事前対策はもちろんだが、何より大切なことは、関係者に対する事後の丁寧な説明と、善後策をあらかじめきちんと決めて対応することが重要である。

B:教職員の離職・転職について
大学が実際に廃校になるまでの期間は長いために、離転職はまだ先でよいという意識が蔓延しがちである。早めに行動に移してもらえるように面談、意向確認など期間を区切って実施するべきである。

C:希望退職実施のポイント
希望退職を実施するうえでは、退職時期、割増し、サポート体制が制度設計のポイントとなる。中でも割増しに関しては、教職員の納得を得る大きな点になる。せめて民間企業の標準である年収の1.5年分程度は確保する必要があると思われる。(民間企業の早期退職優遇制度の場合、通常の退職金に加えて賃金のおよそ 12ヵ月分を上乗せするというデータがある「労政時報」第3746号)