Hisashi Kobayashi’s Blog より

東京大学大学院入学式での祝辞。 小林久志

それでは、皆さんは何をすべきなのでしょうか? 今日から東大で過ごす二年間或いは三年間は、あなた方の人生に於いて最も決定的な時期になると思います。あなた方は人生で何を本当にしたいのかを決め、それに向けての計画を入念に立て、貴重な時間を賢く費やし、東大での経験を次の大きなジャンプへの跳躍台にして欲しいと思います。

修士課程に進学される皆さん、手を挙げてください。修士課程終了後は博士課程を米国の一流大学で目指すことを私は強くお勧めします。米国の一流大学は優秀な教授陣を擁し、大学院での講義も充実しており、世界各地から頭脳明晰な学生、研究者が集まり、競って勉学と研究に励むからであります。米国の大学では、博士課程の学生全員に対し,授業料と生活費を支給するフェローシップやアシスタントシップが充実しています。海外留学に関する情報、支援に関しては、日本学生支援機構(JASSO)に問い合わせるが宜しいと思います。処で、皆さんの中でTOEFLとは何であるかを知っている人は、手を挙げて下さい。TOEFL は ”Test Of English as a Foreign Language” の略です.それでは、GRE が何の略語か知っていますか? GRE とは、”Graduate Record Exam” の略で、学部学生として知って居るべき、数学、英語、解析力を審査する試験であります。勿論、一流の大学の大学院に合格するには、学部や修士課程における成績が優れ、東大の先生方からの強い推薦状が必要です。しかし、東大で優秀な学生であれば、TOEFLGRE さえクリアすれば、合格する可能性は可なり高いと思います。東大が日本でトップクラスの大学であることは海外でも広く知られているからです。兎に角、出来るだけ早く、TOEFLGREを先ず一度受け、自分の実力を見極め、入学願書締切りまでに合格点に達するよう、これから勉強して下さい。私の専門が理工系でありますので、米国留学を強調致しましたが、勿論アメリカ以外の国にも優秀な学部を持つ大学が多数存在します。あなたの専門にとって、一番優れた環境を提供してくれる大学を選ぶ事が肝要です。例えば、フランスの文学や歴史を専攻する方は、アメリカよりフランスの大学を留学先として選ばれるでしょう。

では、今日から東大の博士課程に進学される方、挙手を願います。皆さんには、東大で博士号を取得された直後に、ポスト・ドクとしての研究生活を米国の大学でされる事を真剣に考えて欲しいと思います。

ポスト・ドクの機会を見つけるには、国際学会等に出席した際、あなたの専門分野の教授と出会う機会があれば、積極的に自己紹介をし、その後自分の論文などを送っておくことです。今から自分の考えを英語で話す能力を体得し、正確な英語で論文を書く能力を培っておく事が肝要です。日本学術振興会(JSPS) の海外特別研究員制度の利用も是非検討して下さい。

修士課程の皆さんの多くは将来、必ずしも研究職やアカデミックなキャリアを目指さず、卒業後直ちに実社会に出て活躍されるでしょう。しかし海外留学や国際的体験をする機会がない方達も学生時代に、英語で不自由なく書いたり、話せる能力をしっかり身に着けてください。グローバル時代に益々要求される人材は、国際関係、経済、歴史、文化等にも精通し、自分の専門分野に関しては国際語である英語で不自由なくコミュニケート出来る知識人であると思います。

皆さんは優れた頭脳に恵まれ、人一倍努力することにより、今日ここに名門東京大学の大学院入学を達成された事に大いなる自信を持って欲しいと思います。皆さんの実力を更に高め、グローバリゼーションが急ピッチで進む時代に積極的に立ち向かい、やり甲斐のある人生を目指して欲しいと思います。大海を知らぬ井の中の蛙にならぬよう心掛けて下さい。将来、日本、否、世界をリードする人物に成長され、母校東大の評判を高めて下さる事を、先輩の一人として心から期待しております。

最後に、多数ご出席されているご両親の皆さま。将来の日本を担う人材である御子息、御令嬢を立派に育て上げられた努力に対し、心より祝福と敬意の念を表する次第であります。しかしこの若者たちが再び日本を盛り立てるにはこれからも御両親の励ましと後押しが必要であります。東大が世界でトップ・クラスの大学と肩を並べるには、当然ながら、それなりの資金が必要であります。しかしご承知の様に国立大学の独立法人化が進み大学の自主独立性が奨励される一方で、政府からの交付金額が減らされる傾向にあることは、皆さまもご存知の通りです。東京大学基金資産は約250億円であります。それに奨学寄付金200億円を加えても450億円即ち約4.5億ドルであります。これに対しハーバード大学基金資産は350億ドル、プリンストン大学は158億ドルであります。しかし学生数は、東大が27,800人であるのに対し、ハーバードは19,100人、プリンストンは7,200人に過ぎません。したがって学生一人当たりの基金資産はハーバード、プリンストンが共に、大凡200万ドルであるのに対し、東大は、16,000ドル、即ち 160万円に過ぎません。米国一流大学の100分の1という貧しさです。160万円を上手に運用し年4%のリターンを得たとしても、学生一人当たりに費やせる金額は6万5千円足らずです。<<

3月30日に放送されたNHKテレビの番組「クローズ・アップ現代」によりますと、米国のCharitable Organizationsが受ける寄付が年総額22兆円であるのに対し、日本では、7千億円、即ち30分の1であります。しかし4月9日(金)の朝日新聞に掲載されたNPO法人に対する税制優遇策に関する記事は、「寄付文化が定着している米国では、個人による寄付額が年間で20兆円を超えるが、日本は年間三千億円に届かぬ。」と報道しています。この数字が正しければ、日本は米国の70分の1以下です。仮にNHK番組の数字が正しいと、国民一人当たりの寄付額を計算しますと、アメリカ人が年間7万2千円を寄付するのに対し、我々日本人は、たった5千500円しか寄付をしないという勘定になります。アメリカ人の、15分の1しか寄付をしていないという事になります。朝日新聞の数字の方が正しいとすると50分の1となります。