既得権益者の妄言

「頭脳輸出」とキャリアパス

諏訪理さんは現在31歳、国内では地球科学を学びました。大学卒業後は米国に留学、デューク大学修士号プリンストン大学で博士号を取得しています。専門は気候変動、地球環境問題の国際的なスペシャリストです。研究者として大学での将来を嘱望されている諏訪さんですが、思うところがあって、2年間の勤務でJICAの青年海外協力隊に「理数科教師」として参加することにしました。今年の2月からルワンダの首都キガリの高校「リセ・ド・キガリ」に着任、地理や化学などを教えています。

諏訪さんは学生時代から、いつか国際協力で人類社会の役に立つ仕事をしてみたいという強い動機がありました。読者の中には「第一線の若い科学者がなぜ途上国に」と思う方があるかもしれません。諏訪さんは先進国での研究第一線に戻る予定ですが、ルワンダでも高等学校での理科の勤務と並行して、キガリ工科大学で高度な専門教育にも携わっているのです。ルワンダでは研究環境は十分ではありませんが、リサーチャーとしてのキャリアにも、他者の追随を許さない2年間の経験が加わるのです。その後の彼の人生航路に、この2年は計り知れないほど強く大きなプラスの影響を及ぼすことになるでしょう。

諏訪さんは米国で学びましたが、日本でも文部科学省の「大学院重点化」によって、非常に多くの修士、博士取得者が生み出されています。日本国内では大学などの研究職ポストは数が限られています。結果的に高い研究能力を持ちながら、国内でそれを生かすことができない若者が、実は少なからず存在しています。

国内で十分に力を発揮できていないと感じている、高度な専門能力を持つ若い人は実はかなりの数に上っている現実を、私は大学教師として過不足なく認識しています。

もしも読者の中にそういう方がおられたら、つまり、例えば科学の専門家としての能力を持ちながら、現在は文系就職などで自分の力を十分に社会で発揮できていない、と何らかのフラストレーションを感じている方がおられたら、どうかぜひ考えていただきたいのです。

もはや終身雇用の時代は終わっている。ご自分のキャリアを大きく前進させるうえで、専門の教師として途上国の高校や大学で教える数年間を過ごしてみてはいかがでしょうか?

数年間途上国で専門の教師!!!!!!!!????????

諏訪さんがこの先どうなるかはわからないが、そんな悠長なことを言えるのはアメリカの大学でキャリアを積んでいるからにすぎない。

「数年間途上国で専門の教員をやる」なんて人間はそれこそ山のように見てきた。で、彼らが海外にいる間に何が起きるのか、この筆者は本当に何も知らないのだろうか?

彼らが直面している問題を単に先延ばしをすることで何の解決になるのか、現実を「過不足なく」認識していると豪語する人間ならぜひ説明してほしいものだ。

現在の大学で起きている問題は、そんな対処療法でどうなるものでもないということは、この記事を書いている筆者自身一番良く分かっているはずだ。日本で一番大量のオーヴァードクターを排出、じゃなくて輩出している大学に勤めているのだから。

この程度の提案を、偉そうに上から目線でやってしまえるということは、その程度で霞を食べている若い研究者が納得するとみくびっているだけなのだろう。

こんな妄言に我々はいつまで付き合わなければならないのか。