マレーシア、英語での理数科授業廃止へ 理解できず学力低下

シンガポール=宮野弘之】多民族国家マレーシアの小中学校で行われてきた英語による理科と数学の授業が2012年以降、マレー語や中国語、タミル語の各言語での授業に戻されることになった。生徒が授業を理解できず、理数科ばかりか他の教科でも学力が低下。3月には首都クアラルンプールで制度の廃止を求めるデモが行われるなど不満が高まっていた。

英語力向上で国際的に活躍できる人材を育成するため、マハティール元首相が2003年に導入した制度だが、十分な準備がないまま始めた結果、6年で廃止に追い込まれた

ムヒディン・ヤシン副首相兼教育相は8日、「制度が完全な失敗だったとは言いたくないが、期待した成果を上げることができなかった」と述べた。

地元メディアによると、制度の導入はしたものの、常に理数科を英語で教えられる教師の数が不足し、特に地方では、理数科の教師が英語の辞書を引きながら教える状況だったという。この結果、理数科の成績が軒並み下落。さらに英語や他の教科でも導入前を下回る結果になったという。

この制度について、マハティール元首相は「科学や数学はマレーシアが起源ではない。専門用語はマレー語になく、英語から移植するしかない。それなら最初から英語で学ぶほうがよい」と強調。これに対し、マレー系の学者や教師らは、政府方針は教育の質の低下だけでなく、専門用語のマレー語への移植を妨げ、マレー語を傍流に追いやると主張した。

今回の政府の新方針をめぐっては、都市部の住民らを中心に反対論も出ている。与党の若手議員からは、小学校での英語による授業は止めても中学では従来通り行うか、選択制の導入を求める意見も出ている。これに対し、政府は英語教育そのものは充実させるとして、英語教師を1万4000人増やしたり、小学校で英文学の授業を取り入れたりする方針を説明、理解を求めている。