松本大 x Joi Ito x だいがくのせんせ

<今の日本について:問題はヒエラルキー

(松本)今の日本企業の問題は、ヒエラルキーが上がらないと力を持てないこと。「上から下に」譲るのであって、「下克上」はない。下の人は上に行くまでは発言しない(発言力がない)が、上に行ったときには価値観がおかしくなっている

<「パラダイス鎖国」な日本>

(國領)「パラダイス鎖国」という書籍があるが、このタイトルに象徴されるように日本は変にcozy(居心地がよい)でパラダイスなことが問題。

(松本)日本では、外からは発言が届かない。中にいると発言が許されない。だから、エッジ(へり)で努力している。「最大の旧体制は自分の中にある」と自分に言い聞かせている。

(松本)マネックスの企業文化は日本型ではない。ただし、日本という国の閉鎖性は非常に強く、一人一人の個人の中にその閉鎖性は存在している。

日本は世界で最もクローズドなネットワーク、クローズドなコミュニティ。双方向の意味でホモジニアス。世界中で日本人はほぼ日本にしかおらず、日本の中にほぼ日本人しかいない。

(松本)日本が変わらない理由は戦後の成功体験。官僚/政治家/プライベートセクターみんな、第二次世界大戦後、焼土と化したところから世界一位へ成長した体験を持っているため、ちょっと悪くなってもあれだけできたので大丈夫だと思っている。

そのような人は5年後にはいなくなっている。終戦時10歳の人は5年後には80歳になる。CEOのジェネレーションチェンジが起こり、政界/官僚も変わる。成功体験者がプレイヤー層にいなくなる。

先日若い社員と話していたら、「僕は産まれてから一度も日本がすごい国だと思ったことがありません。」という。そのように思っている、成功体験に縛られていない子達は、普通に競争するだろうし、オープンネットワークでないと勝てないなら普通に取り入れるだろう。

(松本)アメリカだと、上司は(部下に)「お前がやれ」、国際会議も「お前が行け」という。日本だと、国際会議は同じ人が行く。「次の代に任せよう」、「任せて自分も恩恵を受けよう」という発想ではなく、全部自分で刈り取ろうとする。

日本は老人が楽しい社会にするべき。今は、上に長く残らないといい思いができず、下が迷惑を受ける社会。 子供や孫もパッケージにした考え方を提示すべき。「あなたがこうすると、子供/孫はこうなっちゃいますよ」と。

大学にいたときも思ったが、明らかに(自分のプライド保持や保身のためだけに)大学の価値を貶め、実質的に大学を滅ぼそうとしている人間が大学の中枢部に相当数存在している。

例えば、人材育成だ。人文系では特に顕著だが、人材育成が全く行われていない。

以前は大学の増加に伴い、数合わせのためにとりあえず人だけは雇えた。しかし、現在は人すら雇えない。それに加えて、自分たちの雇用や待遇、威厳(チンケなプライド?)を守るために自分にとって都合の良いコシギンチャクしか雇わず人材育成など行っていなかったから、若い層にまともな人間がほとんどいない。

私が所属していたいくつかの学会名簿などを見ても、専任教員の年齢構成の歪さは異常だ。最後まで大学から離れることに反対していた家族も、その学会名簿を見て「この業界は終わっているよ。離れた方が良いね」と呆れたように呟いた。

業界全体の利益を考えている人間など皆無だった。要するに、責任を果たすべき大人が全くいないのだ。長期的に見れば、自らの選択で自滅の道を歩んでいるとしか言いようがない。